日本全国の道路には、様々な種類の道路標識があります。その中にはご当地道路標識の姿もあります。もちろん沖縄にだって珍しい道路標識があります。そこで今回は沖縄で見かける珍しい動物系道路標識の謎を追います!
カニ注意

大宜味村の海沿いにある国道58号線では、横走りをする可愛らしいカニのイラストとともに「カニ注意」と書かれた道路標識があります。この標識には、ドライバーに対して「この道路はカニが通るため注意してそうこうしてください」というメッセージが込められています。
この道路標識が目立つのは、大宜味村の道の駅周辺の国道58号線。実はこの場所は国道58号線を挟んで海と山が存在する場所で、夏の満月の夜になると山側から道路を渡って産卵に向かうオカガニの姿があります。オカガニは普段は海とは反対側にある山の方に生息しているのですが、満月になると産卵時期を迎える為、危険を冒して国道58号線を渡り産卵場所である砂浜に向かうのです。
もともとオカガニというのは、海岸林の中に巣穴を掘って生活しています。夜行性のカニなので、昼間はめったにその姿を見ることはありません。しかも一見狂暴そうに見えるカニですが、とても臆病な性格をしているため人が近づくとすぐに逃げ出してしまいます。そんなオカガニなのですが、産卵時期になるとすべての恐怖心をかなぐり捨て、人も道路も頻繁に行き来する国道58号線に向かって突き進みます。
現在は国道58号線の下に「カニさんトンネル」と呼ばれるオカガニ専用の道路が設置されているため、道路上で車にひかれることは少なくなりました。でもこのカニさんトンネルが完成する前は、海に向かうオカガニの轢死が国道58号線の至る所で見られていました。
それでも未だにオカガニが車に引かれて死んでしまう事故は無くなりません。そこで少しでも国道58号線を通行するドライバーに向けて、この地域がオカガニの産卵場所に近いことや道路をカニが横断する可能性があることを知らせ、少しでも安全に産卵場所へと誘導しようとしているのです。
- 出没場所
- 大宜味村内の国道58号線
- 出没頻度
- 本島内では大宜味村にしか出没しないため、激レアです。
ハブに注意
注意喚起を促す動物系看板標識の中では、圧倒的に遭遇率が高い「ハブに注意」看板。どちらかというと幹線道路上では見かけず、民家や細い山道などに手書きで書かれたものが設置されていることの方が多いのが特徴です。
そもそもハブは南西諸島に生息する猛毒を持った蛇。ちなみに沖縄県内で遭遇するハブは、地域によって種類に違いがあります。沖縄本島周辺はもちろんハブの生息域なのですが、周辺離島においてはハブがいない地域もあります。
たとえば本島北部の港から移動することが出来る伊江島や伊平屋島にはハブがいますが、伊是名島にはいません。さらに那覇港から移動することが出来る久米島・渡名喜島・渡嘉敷島にはハブがいますが、粟国島や座間味島にはいません。このようにハブは飛び石上に分布するという特質を持っています。
ちなみにハブは成長すると全長が1~2m以上になり、オスよりもメスの方が体は大きくなります。頭の部分が大きな三角形をしており、1.5㎝の大型の毒牙を持っています。毒素のものはニホンマムシよりも弱いのですが、1回かみつくと平均22.5mg、最大だと103mgもの毒を排出する恐ろしい存在です。
もともとハブは夜行性の生き物ですから、日中は巣穴などに潜って出てきません。でも雨が降っていたり曇りの日などは、日中でも活動するため人間が遭遇することもあります。ネズミを食べる為、ネズミがいそうな場所であれば人家の中にも入ってきます。特によく遭遇するのは、サトウキビ畑や沖縄式の墓。ですからこのような場所や道路などでは「ハブに注意」の看板をよく見かけます。
- 出没場所
- 沖縄県全域(一部ハブが生息しない地域にはありません)
- 出没頻度
- 非常に頻繁に出没します。
飛び出し注意 ヤンバルクイナ

1980年頃に「ヤンバル」と呼ばれる本島北部地域において種不明のクイナ類が鳥類研究者によって目撃されたことから、種の発見につながったといわれているヤンバルクイナ。でもこの地域に住む人々の間では昔から目撃されてきた鳥で、人々の間では、セカセカと歩く姿から「アガチ―」や方言で山鳥を意味する「ヤマドゥイ」、さらには「シジャドゥイ」などと呼ばれてきました。
1982年には国指定の天然記念物に指定されましたが、絶滅の危険性があるとして1993年には国内希少野生動物種にも指定されています。
ヤンバルクイナは、この地域でよく見られるリュウキュウマツ林などの常緑広葉樹林に生息しています。鳥なのですが飛ぶことが出来ないため、移動する時は歩いて移動します。夜になると木の上に上って体を休めるのですが、これは天敵であるヘビから身を護るためだと考えられています。
かつては大宜味村や東村などでもその姿が見られたヤンバルクイナですが、連続して姿が確認されているのは今では国頭村内でのみです。
そもそも飛べない鳥なので、住みかを移動する場合はどうしても歩いて移動しなければならないヤンバルクイナ。そのためこれまでにも車にはねられたことによる死亡例が多数報告されています。ヤンバルクイナが希少野生動物種に指定されていることや、歩いて道路を横断する姿が度々目撃されていることなどから、車を運転するドライバーに向けて注意喚起を促す「ヤンバルクイナ注意」の道路標識を設置するようになったというわけです。
- 出没場所
- 沖縄本島北部の「奥ヤンバル」と呼ばれる地域、辺戸岬から東向け国道58号線、県道2号線、県道70号線
- 出没頻度
- ヤンバルクイナが生息している奥ヤンバル地域のみで出没するため、この地域に足を運ばない限り遭遇する可能性は限りなくゼロに近いです。
横断注意 イボイモリ
イボイモリは、沖縄県指定天然記念物です。沖縄以外にも奄美大島や徳之島、請島にも生息しています。大人になったイボイモリの全長は13~19㎝なのですが、体全体は黒い色をしているため、道路の色とほぼ同化して見えます。正直言えば「運転中のドライバーに道路と同化しているイボイモリをどのように発見させるのか」という大きな疑問が残るのですが、県指定の天然記念物ですから、沖縄県民の一人としてここは「注意してください」というしかありません。
一応イボイモリの出没するポイントなどを紹介しておきましょう。そもそもイボイモリは、林の中や草原、池や沼地などに生息しています。普段は落ち葉や倒木の下などに隠れるようにして生活しているので、都会の街中では見かけることはありません。ちなみにミミズやクモ、ワラジムシなどの昆虫を餌にしていますので、これらの昆虫類が生息していない地域では「イボイモリ横断注意」の看板を見かけることはありません。
- 出没場所
- 本島北部の「ヤンバル」と呼ばれる地域、および県道18号線
- 出没頻度
- ヤンバル地域に限り設置されているため、レア度は高いです。
横断注意 リュウキュウヤマガメ
1992年に国の天然記念物に指定されたリュウキュウヤマガメは、年々目撃例が減っていることから個体数の減少が危惧されています。昔から地元では「ヤマガ―ミー」と呼ばれて親しまれていて、特に目撃例が多い国頭村奥地域では地元住民たちによる注意喚起の看板を設置する活動が続けられてきました。中でも全校生徒が14名だった当時の奥小学校全校生徒が書いた手書きの看板は、子どもたちの優しさにあふれたほのぼのとしたものだったことから新聞にも取り上げられ、その後その活動そのものが絵本にまでなりました。
こうしたこともあってリュウキュウヤマガメのイラストが描かれた道路標識には、可愛らしいイラストが描かれたものもあります。
- 出没場所
- 本島北部の「ヤンバル」と呼ばれる地域、および県道18号線
- 出没頻度
- 奥ヤンバルと呼ばれる地域にのみ出没しているので、非常にレアです。
オキナワイシカワガエル 動物注意
オキナワイシカワガエルは、沖縄県指定天然記念物です。水辺に生息しているため、道路上でオキナワイシカワガエルに遭遇する可能性は極めて低いのですが、スコールや朝から雨が降っている時などにヒョッコリと道路に出てきてしまうことがあります。
実はオキナワイシカワガエルは、日本で最も美しいカエルとも言われています。大きさは大人の手のひらほどのサイズなのでカエルとしては大きいのですが、体全体に緑と紫の斑点模様があるため、生息地である川や谷の岩と同化して見えるのが特徴にあります。
さらにオキナワイシカワガエルの鳴き声にも特徴があります。カエルの鳴き声とは思えないほど大きな声で「キョ―、キョ―」や「グオッ、グオッ、グルルルルッ」と鳴きます。そのため姿は見なくても鳴き声だけは聞いたことがあるという人もいます。
- 出没場所
- 沖縄本島で「奥ヤンバル」と呼ばれる地域
- 出没頻度
- 非常に珍しいです。奥ヤンバル地域にのみ設置されているのですが、その中でも数が少ないため、遭遇したらかなりラッキーです。