
沖縄のスーパーでは、全国的にポピュラーな蒲鉾よりも「沖縄かまぼこ」と呼ばれる独特の蒲鉾の方が売り場の大半を占めています。家庭料理だけでなく様々な行事でも使われる沖縄のかまぼこ。さてその違いとは?
そもそも蒲鉾なのに板がついていない沖縄のかまぼこ
一般的に蒲鉾といえば、板の上に魚のすり身を半月状に盛り付け蒸して仕上げています。ですから「蒲鉾=蒲鉾板」というのが一般的です。ところが沖縄のかまぼこには、全国的にポピュラーな蒲鉾には必ずあるあの板が一切ありません。
もちろん沖縄のかまぼこも、見た目としては一般的な蒲鉾のように半月状のような形をしています。でも一般的な蒲鉾が美しいカーブを描いているのに対して、沖縄のかまぼこはなんとなく形が四角っぽい形をしています。実は沖縄のかまぼこは、板の上で職人さんがすり身を盛りつけているのではなく、かまぼこの形に成形してそのまま蒸しているのです。
さらに昔は冷蔵庫などがありませんでしたから、腐敗防止のために蒸しあがったかまぼこを油で揚げて作っていました。もちろん今では冷蔵庫などで保存することが出来るので格段に日持ちするようになりましたが、作り方は昔ながらのやり方を受け継いでいます。
赤い色のかまぼこは直接食紅をぬって仕上げる
沖縄のかまぼこにも赤と白のかまぼこが存在します。でも沖縄の赤いかまぼこは、一般的な紅い蒲鉾と比べてもその色がはっきりとしているのが特徴です。
この鮮やかな紅い色の正体は、もちろん食紅です。でも一般的な蒲鉾がすり身に食紅を混ぜているのに対して、沖縄のかまぼこは「白い蒲鉾に直接食紅を塗りつける方法」で色付けします。
公設市場近くのかまぼこ屋では色付けしているところを見ることが出来るかも?
那覇市の「牧志公設市場」といえば、沖縄の食が集まった総合市場です。もちろん市場内にも沖縄かまぼこの専門店がありますが、市場周辺にも昔ながらのかまぼこ屋があります。その一つである「ジランバ屋」では、朝早くに店の前を歩いていると店のお母さんが蒲鉾に食紅を塗って最後の仕上げをしているシーンを見かけることがあります。
お店は牧志公設市場の道向かいにあるのですが、小さなショーケースが一つ置かれ店のお母さんが一人で店番をしている「いかにも老舗のかまぼこ屋さん」といった感じです。でも店のすぐ近くには工場があるため、朝早く店番をするお母さんは商品をショーケースに並べながら、時々紅い蒲鉾の食紅塗りをしていたりもします。
ジランバ屋- 住所:那覇市松尾2丁目9-17
- 営業時間:8:00~19:00※夕方になると商品がどんどん少なくなっていきます。遅くとも18時ごろまでに来店するのがおすすめです。
- 定休日:第4日曜日
沖縄の伝統行事に欠かすことが出来ない沖縄のかまぼこ
沖縄の伝統行事では、地元では「重箱」と呼ばれる重箱料理が欠かせません。重箱料理は盆・正月だけでなく、春にお墓の前で行う清明(シーミー)やお葬式、法事などでも使います
重箱の中に詰められるおかずの種類は地域によっても異なるのですが、一般的には9品のおかずを詰めます。その中で必ずどの重箱料理にも含まれているのが、沖縄のかまぼこです。
ちなみに重箱料理で使うかまぼこは、お祝いの場合には赤い蒲鉾、お葬式や法事などの仏事の場合は白い蒲鉾を使います。
沖縄のかまぼこが大きい理由
沖縄のかまぼこは、全国的にポピュラーな蒲鉾のサイズと比べて驚くほど大きいのが一番の特徴にあります。なぜ沖縄のかまぼこは大きいかというと、そこにも沖縄の伝統行事に欠かせない重箱料理が理由にあるのです。
重箱料理に詰めるおかずは、どれも同じサイズにそろえるというのが基本です。かまぼこ同様重箱料理に欠かすことが出来ない三枚肉(豚バラ肉の煮付け)も揚げ豆腐も、どれも同じ大きさでそろえることによってすべてが美しい状態で重箱に詰めることが出来ます。
ところが全国的に一般的な蒲鉾の大きさは、沖縄の重箱料理のおかずのサイズと比べてかなり小さいですよね?そのためこのサイズでは、沖縄の重箱料理としては成り立ちません。つまり沖縄のかまぼこの大きさがビックリするほど大きいのは、重箱料理として使うことを前提にサイズを決めているからだったのです。
昔はグルクン100%のかまぼこが一般的だった
今では様々な魚をすり身にしたものを使って作っている沖縄のかまぼこですが、昔は「グルクン100%」が沖縄のかまぼこの常識でした。
グルクンはタカサゴのことで、海の中にいる間は体の色が青緑色をしているのですが水揚げされると赤い色に変色します。沖縄ではから揚げにして食べることが多いため、一般的な認識として「グルクンは赤い魚」と勘違いされやすいです。
そんなグルクンは、沖縄の県魚に指定されているほど沖縄を代表する魚の一つです。昔は漁獲量も多かったため、沖縄のかまぼこの材料といえばグルクンが一般的でした。ところが今ではグルクンの漁獲量が少ない上に、「作るのに手間がかかる」「当時のレシピがきちんと残っていない」などの理由も加わり、「グルクン100%」の昔ながらのかまぼこを製造しているお店はほぼありません。
沖縄のかまぼこは沖縄の食と文化に深く関係していた
沖縄のかまぼこは、紅白かまぼこ以外にも様々な種類があります。沖縄そばに入れるためのかまぼこでも地域によって丸型と平型に分かれていますし、さらに本州で言う「さつま揚げ」のようなかまぼこになるとさまざまなバリエーションがあります。
沖縄のかまぼこは、味も一般的な蒲鉾と違います。さらに製造しているお店によって食感や味にも違いがあるため、地元では「○○の店のかまぼこじゃなきゃダメ」という人もたくさんいます。
沖縄にとってかまぼこは、沖縄の伝統食でもありつつ沖縄独自の文化とも深く関わりのある大切な食材。「たかがかまぼこ、されどかまぼこ」といわれるほど沖縄の食と文化に深く関わり続けるかまぼこですから、沖縄を訪れたらぜひ一度食べてみてくださいね。